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― 高級アパートの一室の前 夜 ―
メルティア
「内部の様子ははっきりしました。15畳のワンルームに捜査対象となっている少年を含め未成年と思われる少年が21名」
メルティア
「それと、性別不明の遺体が6体ほど……恐らく、ゴースト化はしていないものと思われます」
メルティア
「間違いないでしょう」
メルティアが壁から手を離すと、静電気のような弾ける音がした。
壁の一部を分解、再構成してカメラを作り室内の様子を探る。メルティアの体内にあるナノマシン精製機によって作られる諜報用ナノマシンの一種だ。
メルティア
「それと、恐らく十代後半と思われる少女が一人、裸身で捕らわれています」
ルルティア
「……玩具、と言う訳か?」
ルルティアの表情に若干の険悪が混ざる。そういう現場に立ち会ったことが無い訳ではないがやはり女性としては嫌悪感を感じずにはいられないのだろう。
そしてそれはメルティアも同じだ。彼女は人造人間だが人間に隷属する為に作られた物ではなく、共に歩むべきパートナーとして生まれた者だ。その彼女のあり方を否定する行為は当然忌むべき行為である。
メルティア
「開錠はしておきました。踏み込みますか?」
ルルティア
「うむ……所で、さっきから気になっていたのじゃがソレはなんじゃ?」
ソレ、とはメルティアの左手に収まっているゴムボールのような物である。軟球テニスのようなしっかりとしたボールではなく、大きさ的にも縁日の水風船のに似ていて落とすだけで割れてしまいそうだ。
メルティア
「これはスモークグレネードです」
ルルティア
「……そうか」
まあ、メルティアは冗談を言うタイプでは無いので彼女がこれは手榴弾だと言えばそれは間違いなく手榴弾なのだろう、多分。
ルルティア
「行くぞ」
メルティア
「了解」
二人の少女はそれぞれのカードを取り出し、開戦の言葉を紡いだ。
まるで、金属の扉に鈍器を打ち付けたような音がした。するとドアはまるでそこにおいてあっただけの鉄板のようにそのまま室内に倒れこんでもう一度けたたましい音を鳴らした。
すかさず、薄暗い室内に白いボールのようなものが投げ込まれる。それは薄いゴムボールのような見掛け通りにあっさりと破裂して中の液体を撒き散らした。
するとその液体は急速に蒸発し、白い煙となって室内を蹂躙する。
ルルティア
「成程、確かにスモークグレネードじゃな」
部屋に居た男たちの反応は綺麗に二通りに分かれた。
目と鼻を覆って咽ながらうずくまる者と、何も感じていない者。即ち、人間とゴーストに。
イグニッションした能力者やゴーストにはこの手の小細工は意味を成さない。それを逆に利用して人間だけを行動不能にしたのだ。
生ける屍と化した男達は全くひるむ様子も無くナイフやバール、ピックにムチなどの武器を手にして身構える。
ルルティア
「後は蹂躙するだけか。全く、便利な弟子を持つと楽でよい」
メルティア
「せめて有能と言ってください」
ルルティアが背から白刃を抜き放つ。彼女の得物にして相棒、大鎌”凶鳥の翼”だ。
ルルティアは地を蹴り、一気に踏み込む。一人の胴にその刃を食い込ませ、そのまま横に凪ぐ。刃を翻し、柄で頭部を打ち据え、首を刎ねる。
射程で勝る長柄武器は広い空間であればナイフなどの小型武器では極めて優位に立てる。しかし、狭い室内であればその立場は逆転し、自由に振り回せない長柄武器、しかも突くのではなく斬る武器であればなおさら不利になる。
だがそれは”常識”の枠にはまっている世界の話。能力者とゴーストという超常の存在にはその一般的な常識は当てはまらない。
ルルティアは縦に、横に、上から、跳ね上げる様に、翻りながら、その白刃を自由自在に操る。その洗練された動きはまるで華麗なダンスを踊っているように見える。
それこそがルルティアの戦術。戦場に自ら流れを作り出し、敵をその流れの中に取り込み、斬る。対峙した相手は操られる様に踊り、殺陣の様に散る。違いは、これが紛れも無い実戦であり、散らされた者はその幕が下りても起き上がることは無いと言う事。
ルルティア
「温いな……この程度では喰い足りぬわ」
人間に雑じっていた数体の化け物は、数十秒で沈黙した。
一方のメルティアも何もしていなかった訳ではない。うずくまっている人間に指先からミクロ単位の弾頭を打ち込む。
これは撃ち込まれた人間の血管に入り込み、ナノマシンを送り込む為の弾だ。血管内に進入したナノマシンは血流に乗って素早く脳へ進入し、強制的に休眠状態に陥れる。薬物による麻酔とは異なり相手のサイズに関わらず血管までたどり着きさえすれば確実に対象を殺す事も無く休眠状態にする事ができる。最も、これもゴーストや能力者といった超常の存在には効果が無い。
これは拳銃のような弾、では無くナノマシンを積んだロケットと表現した方が正しい。実際、打ち出される弾の半分は推進力に使われている。これは対象まで精確にたどり着き、射程距離を伸ばすためだ。
ナノマシン精製機とは言っても一瞬で無数に作る事はできない。その為、こういった工夫が必要になる訳だ。
一見すれば人差指を伸ばし、親指を立てて他の指を握ったピストルの形を作り、遊んでいる様にしか見えない。だが彼女は自らの武器を抜く事すらしていない。彼女の戦闘は静かに、着実に進行する。
そしてゴーストも人間も動かなくなった。
メルティアは倒れた男達を踏みつけて、捕らわれていた少女に駆け寄った。冷静沈着な彼女にしては珍しい、それだけに自らの存在を、尊厳を踏みにじるような行為に内心相当な怒りを感じていたのだろう。
メルティアはすぐさま治療用のナノマシンを彼女の体内に送り込もうとして、気がついた。
彼女たちは、あるとんでもない勘違いをしていたのだ。
メルティア
「――ッ!?」
メルティアの背中から数匹の蛇は生えた。
正しくは、少女の皮膚を突き破って現れた蛇がメルティアの体内を食い破って突き抜けた。
ルルティア
「メルッ!!」
素早く反応したルルティアが大鎌を放し、メルティアを引き剥がして力任せに入り口に向かって放り投げた。荒っぽいようだがそれが一番確実に素早く彼女を危機から遠ざける方法だとルルティアは判断した。
不意を突かれたとはいえ、急所をあっさり抜かれる訳は無い。能力者という者は常人よりかなり頑丈であり、しかも現代医学を遥かに上回る治療技術であるナノマシンテクノロジーを有したメルティアであれば致命傷にはならない、その筈だ。
そう考えて、ルルティアは心を落ち着かせる。そう、一瞬ではあったがルルティアは動揺していて、それは目の前のゴーストにとっては絶好のチャンスであった。
素早く伸びた蛇が、ルルティアの大鎌を遠くへと弾き飛ばす。
自らの失態に気づいた時には、既に素早く伸びた蛇によって四肢を拘束され、目の前の彼女と同じように吊るされていた。
少女
「私の……ご主人様……」
その少女が始めて口を開いた。体中を汚され、口内まで汚濁されているにもかかわらず、少女に衰弱した様子はなかった。
今思えば、彼女をもっと疑うべきだった。感情に流され、真実を見誤り弟子に深手を負わせる事になったルルティアは自らの失敗を悔いた。
だが、目の前のゴーストはメルティアのように攻撃したりはせず、無傷で拘束しているのは殺意が無いと言う事の証明。
そして、それ以上の屈辱を与えようとしている事である証明。
少女
「折角集めた……私のご主人様達……みんな壊した……許せない……!」
怨霊のように呟く少女。その四肢を拘束している鎖から自縛霊と取れなくも無いが蛇を操り、男達を誘惑して搾取していたであろう事からこの少女はリリスである事は間違いない。
ルルティア
「捕らわれていたのはお主ではなく、この男共の方だったか……」
リリス
「違う……私は捕らわれた奴隷……ご奉仕するのが……私の喜び……」
ルルティア
「ふん、被害者面しようと言う事か? ならこの拘束は何のためだ」
リリス
「教えてあげる……最高の幸せ……隷属する……喜び……汚され……犯される……幸せ……」
ルルティア
「そんな倒錯の先の幸福なぞ一生知らずともいい! この真性ドM女がッ!!」
リリス
「大丈夫……すぐ……いい声で鳴くようになる……」
リリスが搾取する相手は別に男性である必要は無い。それどころか能力者は一般人とは比べ物にならない程美味しい獲物である。殺すよりじっくりと搾取した方が魅力的なのだ。
リリス
「さっきの子も……一緒に……墜としてあげる……」
俯き、表情を見せていなかったリリスが僅かに微笑んだ。
能力者といえど、詠唱兵器無しではゴーストに太刀打ちできない。
しかも、頼みの詠唱兵器である大鎌は遠くに飛ばされ、四肢の拘束は硬く、助けに来る仲間もいない。
リリス
「まずは……その良く動く口を……」
ルルティア
「その前に一つ聞かせてくれ」
ルルティアは、この状況でも全く悲観する事は無かった。
ルルティア
「お前は、何人の男を喰らった?」
リリス
「何を聞くかと……思えば……」
今度は分かりやすく、唇を吊り上げた。
リリス
「そんなの……覚えてる訳……無いじゃない?」
ルルティア
「ふむ、男共にとってはなんとも悲しいセリフじゃな」
ルルティアは意趣返しとばかりに嗤いながら言った。
ルルティア
「良かろう。お前を我が敵と認め相応の力を持って殲滅する」
すぱっと、実にあっけなくルルティアを拘束していた蛇は切断された。
ルルティアの黒髪によって。まるで蛇を操るリリスと同じように髪を操り、硬質化して切り裂いた。
リリス
「!」
一瞬の動揺。それはルルティアにとってこのゴーストを滅するには十分な隙であった。
ルルティア
「破邪顕正……命糾斬魔刃ッ!!」
背中から大鎌を抜き放ち、破邪の闘気を乗せて一閃。
リリス
「そんな……卑怯……」
ルルティア
「二本目の鎌があった事か? 妾が髪を操れた事か? どちらにせよ殺せる時に殺さなかったお主が甘かっただけじゃ」
リリスは縦に両断され、破邪の闘気によって白い粒子となって消えた。残された彼女を拘束していた鎖が落ち、じゃらりと音を鳴らして全ては消え去った。
ルルティア
「やれやれ、こんな手に引っかかるとは妾もまだまだであるな」
ルルティアはそう言い残してこの場を去った……自嘲気味に嗤いながら。
恋華
「コイツはずるいぜおい。何で私たちを呼ばなかったんだよ」
ルルティア
「あほう。中学生と小学生をそんなアダルティーな現場に連れて行けるか。R指定だ」
メルティア
「私は一応、小学生なんですけどね……」
メルティアが珈琲を出しながらそう呟いた。
ルルティア
「大丈夫だ。純正の人間でなければ18歳未満でも問題ない」
恋華
「何処の基準だそれは」
妹と違ってこっちの姉は事件の内容が良く理解できていないようだ。
ルルティア
「見ろ、アレが清く正しい学生の反応だ」
恋華
「……いや、姉貴基準はおかしいと思うぜ……」
愛華
「ま、これで一件落着ね!」
ルルティア
「うむ」
恋華
「って言うかメルは大丈夫なのか?」
メルティア
「戦闘行動には支障がありますが事務を行う分には問題ありません」
メルティア
「――しかし、怪我人に働かせるのはどうなのかと思います」
ルルティア
「う……仕方なかろう! 妾はインスタントしか作れん!」
恋華
「あー、まあメルの味はインスタントとは別物だからな……」
メルティア
「お褒めに預かり光栄です」
ルルティア
「まあ、能力者のお約束として全治5日だ」
恋華
「だから、何処の基準なんだそれは」
全ての行方不明者が生還した訳ではない。しかし、生きて帰れた人間は自分の犯した罪の重さを感じているのだろう……最も、元凶はゴーストなのだが。
彼らを裁く者はいない。被害者が実は加害者であった事など知る由もなく、警察がこの事件を知る事も無い。証拠は山本組と銀誓館が綺麗さっぱり消してしまったのであの場所に戻ったとしてもドアが壊れた以外は何の変哲も無い部屋があるだけだ。
それでも、彼らが罪の意識と恐怖を覚えて、少しでも真面目になってくれれば……なんて事は考えない。ルルティアはそんな事は知ったこっちゃ無いのだ。
まあ、折角救った命を大事にして欲しい、位は考えているかもしれないが。
ルルティア
「と、言う事でまた来週!」
愛華
「花京院、イギー、アブドゥル、終わったよ……また明日!」
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