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 世界は騙されているッ!!
 平穏な日常、平和な世界。それがこの時代で日本という国に生まれた者の”常識”。
 だが、その”常識”が偽りの物であったら?
 これは、”常識”の裏側で戦う少年少女達の”真実”の記憶……の奥で綴られるもう一つの”真実”。

 SILVER RAIN PROJECT
  Rough Sweeper Sargat
   『馬鹿な姉と出来る妹』

 レッツ、イグニッション!

 

「宮藤、ちょっといいか?」
 銀誓館学園千尋谷キャンパス。それが愛華の通う高校の名前だ。午前の授業が終わった昼休み。愛華が数人の女子と昨日のテレビの話で盛り上がっていた所に眼鏡を掛けた男子生徒が話しかけてきた。
「ん、なに?」
 この男子生徒の名前は雨宮銀二。愛華のクラスメイトの一人である。
「ちょっと話したい事があるんだ。放課後、教室に残っててくれないか?」
「ええ、いいわよ」
 銀二は愛華の了承を得ると愛華から離れて行った。
「え、今の……なに?」
「もしかして、もしかするの?」
 愛華のクラスメイトは今のやり取りからある疑惑を持っていた。
「?」
 が、当の本人は何とも思っていなかった。
「雨宮君って結構かっこいいよね」
「ちょっと地味だけど、結構頼れるタイプらしいわよ」
 ぴこーん、とSAGAで技が閃いたかの如く愛華もその結論を得る。
「もしかして……私、告白されるの!?」
「そうに決まってるわよ! 放課後誰もいない教室で二人っきりなんて」
「うー、うらやましいわ! 愛華、どうするのよ?」
「困ったわねー。私、そういう事考えた事ないから」
 その後、彼女たちの会話は銀二の品評会へと流れていった。あの眼鏡が知的でクールだとか、真面目すぎるとか、勉強はそこそこだとか、本人を無視して何処までも彼女たちの話は盛り上がっていき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまでずっとその話題で持ちきりだった。


 夕焼けの光が差し込む放課後。教室には愛華以外誰もいない。
「いきなり呼び出して悪かったな」
 そこへ、銀二が現れた。
「い、いいわよ! こういうのって突然来るものよね!」
 愛華は明らかにテンパっていた。
「そうだな。突然来るから困るんだ」
 銀二は一歩づつ近づいてくる。それだけで愛華の心臓は周りに聞こえる位に高鳴っていく。
「私、こういうの初めてだから……どうしようかなって、まだ悩んでるんだ」
「……初めて?」
「そんな訳ないだろう。初めての奴に頼めないぞこんな事は」
「ガーンッ!! 初めてじゃない!? 経験豊富!? 私ってそんな風に見られてたのかッ!?」
 愛華がオーバーなリアクションをした事によって、銀二は始めて愛華が勘違いをしている事に気がついた。
「違うぞ! 私はセイレンケッサクな乙女だ!」
「……清廉潔白って言いたいのか?」
「そう、それ!」
「ちなみに俺はお前……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! まだ心の準備が」
 愛華が暴走し始めると人の話なんかまったく聞かない、という程度の事は銀二も知っていたりする。
「告白じゃねぇッ!!」
 銀二は思いっきり要点だけを叫んだ。そうしないとこの少女は何処までも暴走していく事を知っているからだ。
「え?」
 愛華が思考停止したのを確認して畳みかける。
「大体、予報の話をお前にするのは初めてじゃないだろうが! 確かに、お前一人に頼んだ事はなかったけどな」
「予報……事件かッ!」
「そうだよ、まったく……」
 銀二は溜息をついて自らの予報を話し始めた。


 世界は騙されている。
 700年前、超常の存在を放逐する事で得た偽りの平和。
 しかし、その平和に綻びが生じた。
 降り注いだ”銀の雨”が超常の存在である”ゴースト”を呼び起こし、平和な世界に喰らいつこうとしていた。
 だが、それを止める者がいた。
 ”能力者”と言う超常の力を得た少年少女達――そして、それを支える大人達の作った銀誓館学院と言う存在である。
 偽りの平和を守るため、彼らは戦い続けている。


 運命予報士。
 その名の通り運命を予報する事ができる特殊な能力者が居る。
 彼らの予報する運命とはゴーストによって誰かが命を落としたり、辛く苦しい思いをしたりする悲劇的な運命だ。その運命を能力者に伝えて、未然に防ぐのが彼ら運命予報士の仕事だ。
 彼らは能力者であって能力者では無い。ゴーストと直接戦うための力を持っていない。だからこそ、運命予報士と能力者はお互いを必要とする存在なのだ。


「ターボばあちゃん?」
「有名な都市伝説だな……ちょっと古いが」
 銀二の話を要約するとこうなる。
 とある海岸を走る一本の道路。明け方にこの道路を時速60kmほどで走っていると突然、サイドミラーに老婆が現れるというのだ。それも、被害者と同じ速度で走る老婆が。
 今回の被害者はバイクでこの道を通り、驚いて速度を落とした所を襲われるという予報だった。
「よく言われているのはトンネルの中で現れるって言うが……それよりもスピードを落とすと襲われるって所が問題だ。それに、出現条件も難しい」
 銀誓館の能力者の大半は当然学生である。車やバイクの免許を持っている人間となるとかなり限られてくる。
「だが、車やバイクを使っても相手はかなりのスピードだ。運転しながら倒すのは難しい……っていうか無理だろうな」
「そこで私の出番って訳だな!」
「そうだ。エアライダーのエアシューズなら時速60kmを出せる。しかも車やバイクと違って運転をする必要も無い」
「分かった、任せておきな!」
「まてまて、話しは最後まで聞け。どうもこのゴーストは用心深いらしく一人で走行している時しか現れないらしい。つまり、エアライダーが一人で戦わなければならないって事だ。それだけじゃない。エアライダーといえど時速60kmで走行中に戦闘行動を行うのは難しいだろう。エアライダーの中でもエアシューズを相当修練してる奴じゃないと駄目って事だ」


 エアライダー。略してそう呼ばれる事が多いが正式名称は”月のエアライダー”である。
 数ある能力者のジョブの中でも最もスピードに特化されたジョブだ。すばやい動きで敵を翻弄し、死角から超高速の蹴りを放つ”クレセントファング”と、風のエネルギーを纏いスピードを破壊力に転化する”インフィニティエア”という技を持つ。この二つを掛け合わせた一撃は最高ランクの攻撃力を誇る。しかし、外すと放った本人が大ダメージを負う破目になるというギャンブラーなジョブである。


「それならやっぱり私しかいないじゃないか! 大丈夫、なんとかなる!」
「その自信の根拠は聞いても無駄なんだろうな……とにかく、俺が手助けを出来るのはここまでだ。後はどうやってこのゴーストを倒すか考えてくれ」
「私が蹴り倒せばいいじゃないか!」
「…………」
 やっぱり、この馬鹿に相談したのは間違いだったかもしれない。銀二はそう思ったが既に話してしまった以上この馬鹿は確実に現場に行くだろう。他のエアライダーの当ても無い以上やっぱりこの馬鹿が何とかする事を期待するしかないのだ。
 幸い、この馬鹿には出来る妹がいる。それに、頼れる先輩もいる。多分、何とかしてくれるだろう。銀二は自分にそう言い聞かせた。
「まあ、がんばってくれ。じゃあな」
「じゃあ早速行ってくる!」
 止める間もなく、エアシューズに履き替えていた馬鹿は窓から飛び出して行ってしまった。
 ちなみに、エアライダーはどんなに高い場所から落ちても無傷で着地できるという特殊能力があるのだが、だからといって窓から下校するエアライダーはそんなに居ない。
「……明け方に出るって言っただろうが……」
 猛烈な不安にかられた銀二は携帯電話を取り出した。馬鹿な姉の手綱を握れる唯一の人物、出切る妹に事件の説明をするために。


「ただいま!」
「……流石に現場に直行するほどの馬鹿ではないぜ……」
 丁度銀二との電話を終えた宮藤愛華の妹、宮藤恋華は呟いた。
「恋華! 事件だッ!」
「知ってるよ……だから窓から下校するのは止めてくれ。私に苦情が来るんだ」


 宮藤恋華も能力者である。と、言っても能力者として覚醒したのは姉と同時だったのでキャリアの違いは無い。しかし、なにかと暴走しがちな姉を陰ながらサポートしてきた妹の方が能力者としての評判は高い。
 恋華は”ヘリオン”という能力者である。
 自身の魂を触媒にして聖なる光の波動を操るヘリオンは遠距離攻撃能力に優れた能力者だが、姉の方が高い攻撃力を持っている……が、自爆する事も多い為、恋華はサポート役に回る事が多い。
 能力者としての戦いの中だけでなく全般的にこの姉妹の関係は常にそんな感じである。


「恋華! 練習だッ!」
「聞いちゃいねぇよこの姉は……で、練習ってなんだ」
「もちろん、必殺技だッ!」
「おい、まさか……この事件で使う気か!?」
「もちろん!」
 自信満々な姉の返答に頭を抱えて溜息をつく恋華。
「一回も成功した事ないのに実戦投入かよ……せめて、明日の朝までに成功してくれればいいんだが……」
 彼女達にはスピードを最大限に生かす必殺技がある。しかし、何度練習しても一度も成功していない。
「大丈夫だ!」
「なんでこんな時に事件が起きるかね……」


 荒事処理屋サーゲイト。宮藤家の近くに居を構える胡散臭い探偵社の正体は能力者の中でもさらに特殊な能力を持ったエキスパートである。
 しかし、このサーゲイトには所長の趣味で大量のマンガやゲームにアニメDVDなど様々な遊び道具があるので宮藤姉妹はよく通っている。
 自分達が引き受けた事件の協力を頼む事もあるのだが……
「無理だ」
「きっぱり言い切ったな」
「うむ、できないものはできない。メルが動ければ何とかなったかもしれんがな」
 実は、副所長であるメルティアは昨晩大怪我して帰ってきたばかりだった。戦闘に出られる状態ではない。
「まあ、仮にメルティアが居たとしても時速60kmで走るババアの相手なんぞ出来ん」
「……そうだ。山本組に協力してもらうのは?」
 山本組とは、ルルティアと深い関わりを持つヤクザなのだが……
「それも無理じゃな。言えば軽トラの一台くらいは貸してくれるだろうが、関連のない事件を持ち込むのは色々とマズい」
「それもそうか……」
 ゴーストと関わりの無い一般人はなるべく巻き込まないのが能力者の鉄則である。
「代わりといってはなんだが、一つ策を授けよう」
「策?」
 しかし、この所長ルルティア・サーゲイトは自称異世界人で様々な場所で様々な相手と戦ってきた超常戦闘のエキスパート……らしい。その為様々な状況で相手を打ち破る策を持っている。マンガやゲームやアニメにラノベ等はその為の資料だとか。
「そうだ。そのターボババアは時速60kmで走ると現れるのじゃろう? その条件さえ満たしていれば無理に走っている本人が戦う必要は無い」
「本人が?」
 と、言われて少しの間をおいて恋華は答える。
「……そうか、待ち伏せしてればいいのか!」
「うむ。まあ、この方法でもチャンスは一瞬じゃろうな……やれやれ、ますますメルティアの不在が響く話じゃのう……」
 ちなみに、メルティアは射撃戦闘のエキスパートである。ガトリングガンと自立射撃兵器を組み合わせた分厚い弾幕の使い手だ。相手が時速60kmで走ってきたとしても弾の海に沈める事は可能だっただろう。
 とはいえ、今は療養中なので彼女の手を借りる事はできない。
「でも、今から射撃の得意な能力者を集めれば……」
「それはいかん。そのゴーストは用心深いのじゃろう? 大勢で待ち伏せしてたら現れないぞ。最も、そう都合よく能力者が集まるとも思えん」
「っち、じゃあどうしようもないのか?」
「……いや、妾の推測が正しければお主一人が居れば事足りるかも知れぬ」
「推測?」
「うむ。推測なのだがそのターボババア……本当に時速60kmで走っている訳では無いかも知れぬぞ?」
「……どういう意味だ?」


 太陽が水平線から顔を出し始めた。銀二の言った通りの道に、恋華と愛華は来ている。この太陽が完全に顔を出した時、問題のゴーストは表れるのだ。
「……まったく、小学生の身で徹夜は辛いぜ……」
「しまっていくぞー!」
「結局、朝まで練習しても成功してないしよ……本気でアレを使うのか? 姉貴」
 彼女達は徹夜で例の”必殺技”の特訓をしていたのだが成功しなかったようだ。
 しかし、それでも愛華は迷わずに答える。
「当然だ。アレを決めればどんなゴーストだって楽勝だぞ!」
「決められればな……」
 困った事に常に根拠の無い自信に溢れている姉を止める事は扱いに慣れている妹にもできない。
「大丈夫、私本番に強いから!」
「いつもそう言って赤点とって来る馬鹿はどこのどいつだ?」
 愛華の学校での成績は最下位を争っている。恋華の覚えている範囲では小学生の時からそうだった。
「恋華、実戦とテストは違うぞ」
 ちなみに、恋華はそこそこの勉強でそれなりの成績を取ってくる。能力者になる以前から姉のフォローをしてきた妹は小学生とは思えない程に頭が回ると評判だ。
「話をすり替えるんじゃねぇ!」
 よく、ツッコミの恋華とも言われる。
「じゃあ私は作戦通りの場所に行くから」
 そう言って、止めても聞かない恋華はエアシューズで遠く離れて行った。
「……なるようにしかならない、か」
 そういって恋華もイグニッションカードを取り出し、配置に着く。


 太陽が昇り、水平線から離れた。朝焼けの空が黄金色に輝く。
「よし、それじゃあ……」
 愛華は、一度大きく深呼吸をした。
「……行くわぞッ!」
 エアシューズの回転動力炉が唸りをあげる。この、一見ただのインラインスケートにしか見えない物はエアシューズという立派な詠唱兵器の一つである。インラインスケートとの最大の違いはそれ自身に動力が備わっている事だ。そのため、時速60kmという生身ではありえない程のスピードが出せる。
「レディ、ゴーッ!!」
 愛華のエアシューズは、その超常の力を発揮して一気に加速した。
「……来たなッ!」
 何者かの気配を察し、横目で確認すると……確かにそれは現れた。
 何かに取り付かれたように……いや、正しくは取り付く側なのだが……正に必死の形相で、腕を前後に大きく振り、残像が残るほどの速さで足を前後に動かして走る老婆が現れた。よく見ると自縛霊の証である鎖が腰に巻き付いているが、その先は影の中に沈んでいる。
 もっとも、愛華にそこまで細かく観察する余裕は無い。生身で時速60kmのスピードを出しているのだ。いくらプロテクターとは比べ物にならないほどの防御力を持つ詠唱兵器の防具を着けているからと言ってこのスピードで転倒すればただの怪我ではすまないだろう。
「さあ、私についてこれるものならついて来なッ!」
 老婆の必死の形相は全く変わらない。しかし確かに愛華と併走して走っている……愛華のように、車輪を用いているのではなく自らの足を前後に動かすだけで。


「来た来た来やがったぞおいッ!」
 恋華は双眼鏡を道端に投げ捨ててその姿を肉眼で捉える。
「チャンスは一瞬……か」
 恋華は緊張しながら、徐々に近づいてくるその姿を見据える。
「ルルティアの予想が正しければ……そうでなくても、この一撃でケリが付けられるのならッ!」
 そして、恋華の射程距離に入る、その瞬間。
「光あれッ!!」
 恋華は点を指差し、叫んだ。
 恋華の足元から膨大な量の光が溢れ、天に向かって真っ直ぐ伸びて、途中で三又に分かれる。巨大な光の十字架が朝焼けの道を覆った。
 その瞬間、老婆が動きを鈍らせた。
「今よッ!!」
 素早くターンした愛華の足が、老婆の腰を直撃した。
 老婆の鎖が、千切れた。それは自縛霊としての能力の供給源を立たれたに等しい。しかし、老婆のゴーストはその一撃だけでは消滅していない……もっと、ダメージを与える必要があるのだ。
「恋華ッ!」
「仕方ねぇ、覚悟決めるぜッ!」
 愛華は両足を揃え、跳んだ。


 フルスピードで老婆に向かって跳んだ愛華は正面の足場に右足を引っ掛けて、蹴り飛ばす。足元に移動した足場を踏んでもう一度跳び、蹴り飛ばした先へ回り込む。
「でりゃぁぁぁーーーッ!!」
 再び正面の足場を利用して体勢を変え、オーバーヘットキックを決める。ひっくり返ったまま愛華はさらに跳ぶ。
「そりゃぁッ!」
 今度は回し蹴りだ。老婆の姿が薄れ、形が保てなくなってきている。
「もう一丁ッ!」
 膝蹴りを決め、空に飛ばして自らも空に飛ぶ。
「ここがアンタのッ!!」
「終着点、だぜッ!!」
 止めのかかと落しが決まり、地面に叩きつけられた老婆のゴーストは完全に消滅した。


「……まさか、本当に本番で初成功するとはな」
「言っただろ? 私は本番に強いって」


 愛華が空中で向きを変え、蹴り出してさらに跳んだ時に使った”足場”の正体。
 それは、恋華の詠唱兵器である念動剣であった。恋華のイメージ通りに動く二振りの剣は人一人を乗せられる程度の力を持っている。愛華の動きに合わせて適切な場所に念動剣を先回りさせて、空中での跳躍を行う。それは能力者と言えど極めて高度で困難な連携プレーだ。どちらが失敗しても成立しない。しかも、失敗すれば最悪エアライダーの命を失う事になりかねない。
 そんな離れ業を見事成功させ、勝利した姉妹の脇を一台のバイクが通り過ぎて行く。
「……ミッションコンプリートだな」
「終わりよければそれで良し! さあ、帰るぞ!」


 そんな姉妹を離れた場所で見ている影が二つ。
「どうやら、成功したようじゃな」
「そのようですね」
「しかしまあ、早起きした甲斐はなかったのう。これなら寝ていればよかった」
「――――」
 なんだかんだ言っても、師匠は面倒見のいい人なんですね。そんな言葉が思い浮かんだがメルティアはそれを口に出さなかった……分かりきった事だったから。
「さて、帰」
 帰るぞ、と言いかけたその時。
「いったぁぁぁーーーいッ!!」
「どうした姉貴!?」
 二人を呼び止めたのは愛華の絶叫だった。
「――少なくとも、私が来た甲斐はあるようです」
「……うむ、何時もながらな」


「と、いう訳で全治五日だ」
「だから、それは何の法則なんだよ」
 愛華の足に応急処置を施した後、ルルティアは愛華を背負って事務所へ連れ込んだ。
「能力者のSAGA、か」
 両足膝から下の複雑骨折と、腰の筋肉断絶。それが今回の勝利の代償だ。
「――病院に連れ込んだら両足切断でしたね」
「いや全く危なかったわ」
 メルティアのナノマシンによって部分麻酔をされた愛華は何事もなかったかのように言った。
「馬鹿もここまで来ると立派なもんだぜ……」
 時速60kmで無茶苦茶な動きをすれば能力者と言えどもただではすまなかった。
「やれやれ、成功してもコレではやっぱりこの技は封印か?」
「いやいや、スピードだし過ぎなければ行けるって!」
「逆に今までの失敗の原因はスピード不足か……」
「なんとも曲芸めいた技を閃いたものじゃな」
「発案は姉貴なんだがな……」
 曰く、念動剣を足場に使えば空中ダッシュができるのではないか? そんな格闘ゲームみたいな事を考えたのがそもそもの始まりであった。
 エアライダーと言っても空中を走行できる訳ではない。空中でさらに加速し、追撃するには足場が必要になる。
 ゴーストの中には飛行能力を持つ者も少なくないが、空中での追撃に対応できる奴はそう多くない。
 追撃に追撃を重ね、消滅するまで蹴り続ける。それが、
「インフィニティ・デットエンド。命名は私だ」
「無限の終着点、か……成程、良い名前だ」
「使うたびにこれでは全く実用性がありませんが」
 愛華の治療をしているメルティア自身も腹部を貫かれる大怪我を負っているのだが、その為に治療用ナノマシンを大量生産していた。そのお陰で愛華の大怪我も全治五日ですんだと言う訳だ。
「ルルティアの読みが当っていて助かったぜ」
「ふ……無駄に人外ばかりと戦っていた訳ではない」
 ”自縛霊”は他種のゴーストより強い力を持っている。それは、その名の通り特定の条件に縛られているためだ。
 その出現条件が複雑であればあるほど自縛霊は強力な力を溜め込んでいる。
「だが、出現したまま条件を崩せばどうなるのか……結果はこの通りじゃな」
 ターボババア。その正体は高速で走るゴーストではなく、高速で走る者の影に取り付くゴーストだったのだ。影に取り付き、姿を現すことであたかも「高速で走っている」ように見せかけていたのだ。
 だから、恋華は光の十字架を使って光源を作り、影を薄めた。取り付いていた太陽の影が薄れる事により、自縛霊はその力の供給源を絶たれ、一時的に弱体化したのだ。
「逃げるにしても影が必要なのじゃろう。何せ、ゴースト自身に影は無い。愛華が空中に居れば影は離れる」
「結果的には姉貴の判断は正しかった訳だ……一応な」


 恋華は知っている。姉はただの馬鹿ではない。
 その実かなりの推理力を持っている。受けた情報を素早く整理して正しく返す。かなりの天才だ。
 しかし残念ながら記憶力や理解力が無い。1+1が2になる事を推理する事はできても理解し、記憶する事ができない。まあ、流石に1+1が答えられないほどでは無いが。


「怪我が治ったら早速練習再開だ!」
 馬鹿な姉とできる妹。周りからはそんな風に言われているが恋華はちょっと普通の小学生より常識を知っていて、勉強ができるというだけだ。だからと言って自分を卑下するつもりは無いのだが、もっとこの姉が周りに評価されればいいな、と思う事もある。
「やれやれ……だぜ」
 だが一方で、唯一妹である私だけが姉の真価を知っている。そんな事にちょっとだけ幸せを感じない事も無い。
 やはり、姉は姉なのだ。この世に唯一無二の存在だ。
「ねえ、いつ治るのよこれ」
「いくらなんでもそんなにすぐには治らん! 全治五日と言ったじゃろうが」
 だから、頼むから、もう少し自分を大切にして欲しいものだ。
 



b06033_icon_10.jpgSS版なのじゃが、愛華の仕様変更により語尾が代わったのでまずで別人のように……と、までは行かないか。結構イメージ変わったと思うがな。ちなみに、HTML版を修正する予定は無い。最近、新作SS出してないからそろそろデスサガをネタに一本出したい所であるな。
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架空創作表現規制禁止の法制化を求める署名
 現代日本を代表する文化となった、漫画・アニメーション・ゲーム等の架空創作表現が、良識・正義等を騙る現実と虚構の境界を失ってしまった人たちによって大きな危機に瀕しています。

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