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世界は騙されているッ!!
平穏な日常、平和な世界。それがこの時代で日本という国に生まれた者の”常識”。
だが、その”常識”が偽りの物であったら? これは、”常識”の裏側で戦う少年少女達の”真実”の記憶……の奥で綴られるもう一つの”真実”。
荒事処理屋サーゲイトはオタクでニートな所長とクールで苦労人な副所長が運営している貧乏探偵社。しかし、彼女達には裏の姿があった!
SILVER RAIN PROJECT
Rough Sweeper Sargat
『荒事処理屋サーゲイト』
レッツ、イグニッション!
宮藤家の朝は早くも遅くも無い。登校時間の一時間ほど前に宮藤家の次女で小学生の宮藤恋華は一階のダイニングへ降りてきた。
「おはよー!」
「おう、おはよう姉貴」
その妹に声をかけたのは宮藤家の長女で中学生の宮藤愛華だ。
「あー、今日は放課後どうしよっかな?」
朝食のパンにいちごジャムを塗りながら呟く、と言うには大きすぎる声で言った。
「ああ、ルルんトコは今日開けないって昨日メルが言ってたな。仕事だって言ってたが……」
その一言で、恋華はいつもの”遊び場”が開いてない事を思い出した。
「大口が入ったってルルティアが大喜びしてたわね。ルルティアが仕事熱心な所なんて始めて見たわ」
「……そうでもないと思うぜ。後で私達も出番があるから用意しておいてくれって言ってたが」
伝言を思い出した恋華は、愛華にそれを伝えた。
「ルルが? なんで探偵業にあたし達が付き合うわけ?」
しかし、愛華の方はそれに心当たりが無いようだったので、恋華は更に付け加える。
「おいおい姉貴。探偵業ならルルが喜ぶ訳ないだろ。今回の仕事は”本業”絡みらしいぜ」
「”本業”絡み……?」
その言葉を聞いて、首を傾けて考え込む。こうなるとしばらく動かないので恋華はすばやくその答えを提示した。
「つまり、出るってコトだ」
「何が?」
だが、姉は妹の配慮を踏み倒して疑問を突きつける。
「……姉貴に行間を読ませようとした私がバカだったぜ。だから、出るんだよ」
”奴等”がな。
黒髪の少女が、貸しビル内のオフィスの前で立ち止まる。
「メル、確認は取れたか?」
「はい、師匠。ここに間違いないです」
メル、と呼ばれた白銀の少女は間髪居れずに返答する。
「よし、踏み込むぞ。仕込みは任せる」
「了解」
黒髪の少女の名はルルティア・サーゲイト。
白銀の少女の名はメルティア・サーゲイト。
名前が一文字しか違わない彼女達だが姉妹ではない事は一目でわかる。
癖の無いロングの黒髪と、銀色のショートカット。
赤いシャツとミニスカートをほぼ被っているロングコートのルルティアと、デニム生地のワンピースのみで腕や太股や胸元を惜しげもなくさらしているメルティア。
背丈こそ変わらないが彼女達は並んで立つと対照的に見える。
だが、ルビーのような紅眼だけは同じだ。
貸しビルのガラス扉に手をかけてルルティアが押し入る。扉の正面にはつい立があり、ここからでは奥の様子はうかがえない。来訪者に反応してか、若い男が歩み寄ってきた。
「いらっしゃいませ。当社に何か御用ですか?」
丁寧な言葉で取り繕っているがルルティアを見下し、威圧的に追い払おうとしている事が一目で分かる。
「私はこういう者だ」
だが、一歩も引かずにルルティアは懐から一枚の名詞を取り出して男に突きつけた。
「私設弁護士、佐川縷々? 当社に何か御用でしょうか?」
弁護士、という肩書きに懐疑的ながらも僅かに反応を見せた男。しかし、それを見ても男は威圧的な態度を崩さず同じ言葉を繰り返す。
ルルティアは一切態度を変えずに言葉を紡いでいく。
「御社の業務は貸し金融で間違いありませんね?」
「確かに金融も取り扱っております」
「瀬名康彦様の件で伺いました。御社は法的に不正な金利で法外な金額を巻き上げていると瀬名様からの相談を受けまして」
若い男は露骨に威圧を始めた。どうやらこの手の事には慣れているようだ。
ルルティアは弁護士でも探偵でもない。
だが、時間稼ぎのハッタリは寧ろ得意分野と言える。ルルティアは次から次へとそれっぽい単語を適当につなぎ合わせて相手を牽制しつつその時を待つ。
コン、と軽く壁を叩く音。それはメルティアの仕込みが終わった合図。それを聞いたルルティアはハッタリを挑発へと切り替える。
「とにかく、御社が不正な金利で越後屋がうはうはなのは桜吹雪が黙っていないという訳である」
少女のあまりにも適当で理不尽な言葉に若い男は終に切れた。
「訳の判らない事をごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇ! こっちはガキの遊びに付き合うほど暇じゃねぇんだよ! ぶっ殺すぞ!」
おお、単純単純……ルルティアは心の中で呟く。
「その言葉、宣戦布告と受け取った。当方に迎撃の用意アリ」
ルルティアが、ニヤリと嗤った。次の瞬間、重い踏み込みと共に拳を若い男の胸に叩き込む!
「なっ!?」
若い男は、自分が確かに宙を飛んでいる事さえ理解できずにブラックアウトした。
ルルティアの拳は、成人男性一人をボールのように弾き飛ばし、ついたてを薙ぎ倒してさらに数個の机と椅子を巻き込んだ。
突然の出来事に無数の電話機が並ぶオフィスが騒然とする前に、”仕掛け”が発動した。
ぱん、と軽い音がした。それも立て続けに何回も。だがこの音はある特定の音を聞いたことがある者にはある物を連想させる音だった。
その特定の物とは、拳銃の発砲音である。
「Shall We Dance?」
ルルティアは騒然とするオフィスに飛び込み、手近に居た男の腕を掴んで振り回した。
踊る、と言うよりはまるで武器のように。
「ハハハハハ! もう終わりとはつれない奴だ!」
男の関節が外れた事を腕越しに確認すると掴んだ腕をあっさりと放し、別の倒れている男の片足を掴んだ。
「さあ、お前は何秒踊れるかな!?」
「師匠、終わってます」
既に少女達以外に動く者の居なくなったオフィスを見てやや呆れる様にメルティアが言う。
「なんだ、つまらん」
掴んだ片足を振り回しかけて、離した。男は顔面で床を雑巾掛けする事になったがルルティアには関係ない。
「やれやれ、ここからは面倒な作業か」
「迅速に行きましょう。駆けつけてこられてはさらに面倒です」
「判っておるわい。妾が書類を捜すから分別宜しく」
「了解」
ルルティアは種類の入っていそうな所をこじ開けて、中の書類をメルティアに渡す。メルティアは座ってそれを仕分けする。
まるで洗濯物を取り込む夫と畳む妻のような構図になっているのだが取り込んでいるのは所謂ヤミ金業者の得物リストなどで、畳んでいるのはその中から元締めを割り出せそうな書類である。
「ここはこの程度じゃな。そっちの首尾は?」
目に付く物を一通り片っ端からこじ開け終えたルルティアはメルティアに聞いた。
「後、二件程梯子すれば正確な情報が得られるかと」
「やれやれ、現代社会とは角も面倒な物よのう……」
「それで、私達はこんな所で何をするの?」
「おいおい、何するのってちょっと考えればわかるだろ」
宮藤姉妹は深夜のとある高級住宅街に居た。
「うーん……判らないわ!」
「姉貴に普通の思考を期待した私が悪かったぜ。つまり、だ。いまから、この近くに”奴等”が現れるって事だよ」
そんな話をしている二人に、黒白の二つの影が向かってきた。
「よう、ルルティア」
「うむ、定刻通りじゃな」
「この屋敷か?」
親指で指し示した先には、高い塀で囲われた日本家屋がある。
「うわ、すごくでっかいお屋敷だな! ここで何するんだ? バーベキュー? 花火?」
「……やりたかったら後でやってくれ」
姉を適当にあしらう様とても手馴れていて身長が違わなければどちらが姉かも分からない程だ。
「あちらに入り口があります」
メルティアが指を刺した方には、確かに入り口があった。だが、そこは……
「ねぇ、もしかしてこの家って」
「今更気づいたのか姉貴。そうだよ、このお屋敷は要するにその筋の」
「すっごい金持ち?」
「……ヤクザだ」
やはりこの姉に流れを読む気は無いらしい。恋華は正解を突っ込んで黙らせる事にした。
「え、マジ? それやばくない?」
「やばいとも。所詮一般人、イグニッションすればとりあえずどうとでもなるが後が色々とマズいぜ」
ヤバい、と口では言っていながらも全く怯える様子は無いこの姉妹。
「心配するな、一般人の相手は我々がする。お前たちは20分後に玄関から堂々と入ってくればいい」
「その前に一般人の方々は私達で鎮圧しておきます」
黒白の師弟が手順を告げる。
「OK、その辺は信用してるぜ」
「討ち入り? 討ち入りなの?」
だが姉は有頂天。
「……とりあえずそこの馬鹿はこれ以上騒がせるな」
「……OK、互いの健闘を祈るぜ」
そして、少女達の影は三つに分かれた。
「では……推して参るぞ」
ずしん、と一撃。さらに二、三発蹴りを入れると巨大な門に見合った巨大な閂も悲鳴を上げてその留め金も歪む。
ばきん、と次の一撃で巨大な門はその口をこじ開けられた。ちなみに、通常人が出入りする為の小さめの扉もあったのだが無視したようである。
「妾、参上。骨のある奴はかかって来い!」
言われるまでも無く、閂をヤクザキックでへし折った怪力少女に刃物を手にした男が次々と罵声を浴びせながら向かってきた。
「さて、ウォーミングアップ位はこなして貰おうか?」
ルルティアは背中からするりと、まるで手品のように銀色に輝く鋼鉄の大鎌を抜き放った。
一方、壁を飛び越えて進入したメルティアは足音を殺して廊下を歩く。
師匠の方はずいぶんと派手にはじめたようですね――いつもの事ですが。メルティアは心の中で呟く。
そのまま静かに、右前方にあったふすまに指を突っ込む。
傍目には一体何をしているか判らないが少女の指先からは肉眼では見えない超小型の機械……正確には脳の活動の一部を物理的にシャットダウンする事で正確に12時間分眠らせるナノマシンを内蔵したマイクロミサイルを飛ばして室内に居た五人を一度に昏倒させた。
黙々と作業を続けようとしたメルティアはこちらに近づく足音に気が付いた。
そして、相手がこちらに気付く前に同じ物を撃ち込む。男はメルティアの存在に気付きもせずに倒れた。
メルティアは静かに、確実に任務を遂行する。
「どっせーい!」
ルルティアは大鎌の柄で数人の男を一片に薙ぎ倒した。
「ふははは、どうした! お前達の任侠魂はその程度か?」
なぎ倒した屍を……まあ、殺してはいないのだが……踏みつけて、高々と笑う。
「このクソガキがッ!」
「そぉいッ!」
切れたチンピラが拳銃を発砲しようとして、その前に薙ぎ倒される。
「この状況で銃を使えば味方に確率の方が高いくらい理解できんのかのう……?」
「大人を舐めんなよクソガキ……ッ!」
拳銃を構えた数人の男がルルティアを取り囲んだ。
「ガキに舐められたまんまじゃ俺達の面子がたたねぇんだよッ!」
だが、全く動じないルルティア。
「成程、鉄砲玉の命より面子の方が大切か。意外と考えているのじゃな」
「往生せいや……クソガキッ!」
発砲音が夜空に響いた。
「おー、随分派手にやらかしてやがるな……どうした、姉貴」
「うー、ちょっと楽しそうね」
「おいおい、姉貴。極道でも一応一般人相手にしてるんだぜ? ”イグニッション”する訳にもいかないし」
その時、炸裂音が二人の所へもたどり着いた。
「おいおい、今の銃声!?」
銃声を聞いて、恋華は動揺し始めた。
「みたいね」
だが愛華は平然と答える。
「こんな時までボケてるんじゃねぇぞ姉貴! あいつ等は”イグニッション”してないんだぜ!?」
「ええ、してないわよ?」
「じゃあ拳銃なんか持ち出されたらただ事じゃ済まないぜ! 今すぐ助けに」
「ちょっと恋華。さっき討ち入りは20分後って言ってたでしょ? それに一般人相手に”イグニッション”しちゃだめよ?」
「ッ!?」
恋華は、この姉が何を考えているか理解できなかった。バカだとは思ってたがこの状況も理解出来ないほどだったのか?
「大丈夫よ恋華」
だが、それは間違いだった。状況を理解できていないのは愛華ではなく恋華の方だ。
「ほら、まだ続いてるでしょ? だから大丈夫」
「……っち、そういう事かよ」
そう、愛華の言う通りまだ争い合う音は続いている。それは逆にルルティアが健在であると言う事だ。
「あの二人は”イグニッション”してなくてもそこそこ強いんだから。あー、羨ましいわね」
「そこそこ強い、ってレベルじゃねぇだろ……」
恋華は脱力してその部分だけ突っ込んだ。
「クソが……」
「赤い人が言いました。当らなければどうと言う事は無いのじゃよ……うん? このセリフは金色の時じゃったかのう?」
どさり、と。最後の男が崩れ落ちた。ほぼ同時に白い影が現れる。
「師匠、お疲れ様でした」
「うむ、ではボス戦へと赴こうか」
その男は、ただ力が欲しかった。
男は、子供の頃から目立たない方で、体力に優れているとも言えない弱者であった。
そして子供とは、弱者を容赦なく排斥しようとする。無邪気、とも言える無慈悲さで。
まだ子供であった男はただ耐えるしかなかった。それと同時に思い知らされたのだ。
この世界は、弱者を容赦なく排斥するようにできていると言う事に。
そんな男が”力”を得たのは、ちょっとしたきっかけに過ぎなかった。
刃物は、男にいとも簡単に力を与えた。そして、愚かではなかった男は器用に立ち回り強者となった。
刃物の次は法律が男に力を与えた。陰に潜み、網をくぐって男は金というさらに大きな力を手に入れた。
もちろん挫折しそうになった事もあった。捕らわれた事もあったし、命を落としてもおかしくない事もあった。
だが、弱者に戻ることを恐れた男は我武者羅に力を求め、求め続けた。
気がつけば、男の周りには力が満ち溢れていた。
望めば望むだけの力を男は手に入れる事ができるようになった。
だが、いつからだろうか。
どれだけ大きな力を手にしても、まだ足りない、足りないと何かが叫ぶのだ。
男は力を求めた。ただ求め続けた。
その部屋は、圧倒的な程の死臭に満ちていた。
屋敷の奥、そこに目標は居た。
「一応、聞いておこう……貴様は、これまで何人の命を喰らった?」
男は、ニタリと嗤って答えた。
「食った飯の数など、覚えている訳がなかろうよ」
「然り……ならば貴様を我が敵として認めるッ!」
二人は、懐から素早くカードを抜き放って叫んだ!
「「イグニッションッ!!」」
世界は騙されている。
700年前、超常の存在を放逐する事で得た偽りの平和。
しかし、その平和に綻びが生じた。
降り注いだ”銀の雨”が超常の存在を呼び起こし、平和な世界に喰らいつこうとしていた。
だが、それを止める者がいた。
能力者と呼ばれ、超常の力を得た少年少女達――そして、それを支える大人達の作った銀誓館学院と言う存在。
偽りの平和を守るため、彼らは戦い続ける。
”イグニッション”
それは開戦の狼煙。銀誓館学院のみが持ち、普段は封印されている超常の力を発動させる為の”切り札”。
雷鳴のような閃光が二人の少女を包み、弾けた。服装こそ余り変わりは無いがその手には異形の武器が握られていた。
ルルティアは先の戦いで使った大鎌とさほど違いは見られない。だが、柄の先に唸りを挙げて回転する物体がある。この回転動力炉こそが超常の存在を打ち破る力を発生させている。
メルティアの方は右肘から下がほぼその武器に埋め込まれていた。銃身旋回式機関銃、いわゆるガトリングガン。少女とは不釣合いな巨大な機械の銃口が、威圧するように突きつけられる。
「おいおい、時間までまだ二分半あるぜ?」
「さては私達の出番を潰す気だったわね!」
振り返るまでもない、外に居た姉妹がそこに立っている。
「「イグニッションッ!!」」
閃光が姉妹を包み、弾ける。
恋華は全身を覆うようなロングコートと指の部分が開いているレザーグローブ。その脇に浮かぶ、長剣と曲刀。
愛華は床まで着きそうな長さの擦り切れた赤いマフラーに鉄鋼で作られたようなインラインスケート。
「それが、お前達の力か?」
男は、不敵に微笑む。気付けば男の体は元の数倍のサイズに膨れ上がっていた。
この男は既に人間ではない……ゴーストと呼ばれる超常の存在である。何時からかは判らない。だが、社会的力と異形としての力の両方を揃えた男に敵は居なかった。不運にも彼に近づいた者は文字通り喰われるか、目を背けて手下として食料をこの男に届けるのみであった。
だが……この男の命運はこの少女の出現によって今、尽きる事になる。
「そうとも」
少女は口の端を釣り上げた。
「役は揃った。ショウダウンだッ!!」
四人の少女が散開し、男に襲い掛かる。
「インフィニティ・オン! 人狼術式展開!」
愛華がクラウチングスタートの姿勢で構えた。彼女のインラインスケートに取り付けられている回転動力炉が唸りを上げる。
「マニューバセットッ! 初っ端からフルスピード、フルパワーで往くわよッ!!」
「なら、一口乗らせて貰おうか」
愛華が弾けると同時に、ルルティアも地を蹴る。
「どっかーーーんッ!!」
最初に仕掛けたのは愛華。三日月を描く様に放たれたサマーソルトは男の右腕を切り裂く。
「併せ、命糾斬魔刃ッ!!」
立て続けに切り込んだルルティアの漆黒の闘気が右腕に食い込む。
「小賢しいッ!」
男は刃の食い込んだ右腕を力任せに振り回し、二人を弾き飛ばした。
「うそ、まともに入ったのに!」
すばやく空中で体性を立て直した愛華が愚痴をこぼす。エアライダーである彼女は空中を滑走する能力を持つ。
「小娘がぁッ!!」
だが、ルルティアはそうは行かない。左腕で空中のルルティアを打ち抜く。直撃を受けたルルティアは壁まで飛ばされた。
「だが、ガードは空いたぜッ!」
「その隙は逃せませんッ!」
すかさず恋華とメルティアが黄金の光に包まれた二本の剣と、白銀の闘気を帯びた無数の弾丸を叩き込む。
「むぅ……!」
男は、数歩後ずさったが、倒れる気配は無い。
「甘い、甘いぞ小娘ッ!」
「うわわっ!」
打ち抜いた左腕で近くに居た愛華をなぎ払おうとしたが、愛華はこれをギリギリで回避。長いマフラーだけが引っかかり、繊維が宙に舞う。
「師匠、大丈夫ですか?」
「問題ない。だが、今の一斉攻撃で落とせないとはな……空中で身動きが取れなかった妾を狙ってくる辺り判断力もいい」
壁に叩きつけられる前に受身を取ったルルティアは、問題ないと答えた通りすぐに体勢を立て直した。
「少々、長い夜になりそうだ」
「なに、それなりに通ってるぜ。少なくとももう右手は使い物にならねぇ」
「私の直撃が入ったんだからそのくらいは当然よ!」
強気の少女達を圧倒せんと男が大声を張り上げる。
「もう勝った気か? 格の違いを教えてやる!」
男は左手で転がっていた頭蓋骨を掴み、投げた。それは砲弾のような速度でメルティアに迫る。
「TBB、AWAKE」
メルティアの広げた掌の先に、バリアのように白いパネルが張り巡らされる。しかし、砲弾はその勢いをややそがれはした物のパネルを貫き、メルティアの左手を弾き飛ばした。
「っ――!」
「メル?」
「損傷軽微、戦闘続行に支障はありません」
弾き飛ばされた左手は衝撃で関節をはずされ、骨が肉を突き破りかねないダメージを受けていたがメルティアは意に介さず答える。
「よし、奴が二投目を投げた時、一気に積むぞ」
「了解」
「おっけーだ。姉貴、こっちも併せるぜ」
ルルティアは大鎌を両手で構える……まるで野球のバットのように。
「はっ、イチローにでもなったつもりか!」
「レーザービームで地球を滅ぼしたりはできんが、お前を倒すくらいは容易い」
嘲笑う男に、嘲笑い返すルルティア。
「抜かしたな小娘。ならば受け取れぇいッ!」
男が頭蓋骨を鷲掴み、第二投を放った。
「後殲断衝……」
ルルティア足元から灰色の闘気が舞い上がる。すると、滑るようにその体が半歩ほどずれた。
「な……に!?」
そう、そこは正しくストライクゾーン。男は最高にいい球をルルティアに投げてしまった。
「滅牙ッ!!」
だがルルティアは球を打ち返さない。逆に、バントのように球の勢いを受け入れて、回転する。
「絶・衝・壁ッ!!」
爆音と共に床を切り裂きながら、自身の投球のエネルギーに上乗せされて放たれたルルティアの空を裂く斬撃が男に襲い掛かる。
一瞬、男はそれを避けようとした。それは可能だったかもしれなかった。
だが、すべてはもう手遅れだった。
「TBF、AWAKEッ!!」
男の右方の壁が突然、粉々に剥がれ落ちてその欠片が弾丸となって襲い掛かる。
「喰らってくたばれッ!!」
左から、恋華が光り輝く巨大な十字架を投げつける。
「チェストォーーーッ!!」
いつの間にか背後に回りこんだ愛華が空を蹴り、ドロップキックを放つ。
「こ、こんな馬鹿なッ!?」
ルルティアの斬激、メルティアの弾幕、恋華の十字架、愛華のドロップキック。その全てが同時に、
「全ては妾の挑発に乗ったその瞬間に決まっていたのだ……貴様の負けじゃ」
男の存在は、この世界から消滅した。男の喰らった何百もの魂と共に。
「なあ、ほっといていいのか?」
戦闘が終わって、荒れ果てた館を後にしようとするルルティアを恋華が呼び止めた。
「ああ、後始末は銀誓館に任せてある」
「おいおい、それじゃお前が大暴れしたのもバレるんじゃないか?」
一般人に超常の存在を気付かれてはならない。それが能力者のルール。だが、多くの一般人をなぎ払ったと言う事実はそのルールに抵触している。
ルルティアは軽く嗤って答えた。
「それも承知の上、という事じゃよ」
「じゃあ、この件のクライアントってもしかして」
「無論、銀誓館じゃ」
「なんだよ……それじゃいつもの依頼と大差無いじゃないか」
「恋華はそれが不満?」
唐突に口をはさまれ、恋華は少し驚きながら言った。
「いや、そういう訳じゃないけどさ」
「じゃあいいじゃない! 私達はいつも通りゴースト退治をしただけよ」
「うん? まあ、そうだな」
意外だったのは今回の件について愛華が何の疑問も持っていない事だ。
「……いや、やっぱ普通じゃねぇだろ。ヤクザの家に押し入ってるんだぜ?」
「その辺はルルティアがやった事でしょ? 私達には関係なし!」
「まあ、私達は関係ないけどさ。ルルティアはマズいんじゃねぇか?」
話を振られたルルティアは何のためらいも無く答えた。
「無論、何の問題も無い」
「いやまったく、お穣ちゃんには驚かされてばかりだ」
「何、妾は少々手を貸しただけじゃ」
数日後の喫茶店に、ルルティアと、その向いに座って話す中年男性が居た。中年男性はタバコを吹かしながら笑った。
「はっはっは。うちのせがれの一人でもくれてやりたい位だ!」
「悪いがそれは断る。自分の男は自分で見つけるのでな」
「だろうな。お穣ちゃんはそういうタイプだ」
男はタバコを灰皿に押し付け、新しい一本に火をつけた。
「しかしいいのか? シマ一つ取ったんだ。桁一個増やしたっておかしくないぞ」
「何、貧乏探偵社があんまり金を持つのは困る。それに、こういう仕事ばっかリ受けてると本家がいい顔をしないだろうしな」
「あくまで銀誓館のエージェントって訳かい」
「左様。今回はたまたま互いの利益が一致しただけじゃ」
「そうかい、じゃあそういう事にしておいた方がよさそうだな」
新たな一本のタバコに火を付けてくわえた男に、ルルティアが笑いかけながら言う。
「それに、たまたまがまたあるかも知れんぞ?」
その一言で少女の意図を読み取った男は、また豪快に笑いながら言った。
「はっはっはっは。全く恐ろしいお穣ちゃんだ」
「では、この辺で失礼する。またのご依頼をお待ちしているぞ」
ルルティアは男を残して席を立つ。
「まったく、そっちから押しかけておいてまたの依頼をお待ちしますか。いい根性してやがる」
タバコを灰皿に押し付けながら男は言う。
「若、なんだったんですかい? 今のガキは」
隣の席に座っていた若い男が、中年男性に問いかけた。
「自称、正義の味方だそうだ」
「何だってそんな奴が?」
だがその中年男性、とある組の若頭は若い男の疑問を踏み潰すように怒鳴りつける。
「オラ、口動かしてる暇はねぇぞ! シマが増えたんだ、暫く忙しくなるからな!」
「へい、若!」
「おいおい、すっげーモン見ちまったぜ」
「銀誓館とヤクザの癒着……スキャンダルね」
その喫茶店の外。ルルティアを追ってきたらしい姉妹が居た。
「こらお前ら、こんな所うろついておったら危ないじゃろうが」
「うわ、何時の間に後ろに!?」
「まったく、余計な事は気にするなといったのにのう」
二人がお互いに目を合わせた僅かな隙に、ルルティアはその背後に立っていた。
「おい、まさか私たちを……」
「コンクリートで日本海?」
「アホか」
ルルティアは相変わらずアホらしい事を言う姉に思った事をそのままぶつけた。
「いや、実際どうなんだよ。ゴースト退治でヤクザから金貰っちゃマズいだろどう考えても」
「さて何のことやら……妾はこの界隈で麻薬取引及び人身売買しとった組織を一つ潰しただけじゃぞ」
「……人身売買?」
「あのボスがなんだったか、もう忘れた訳ではあるまい?」
「リビングデット……ああ、そういう事か」
「そう、奴は麻薬で餌を釣り、掛かった奴を喰らっていたリビングデットだった訳じゃ。だが、いくら銀誓館でもヤクザに討ち入りはマズい。そこで我々……まあ、正確確実に相手を12時間眠らせるメルティアのナノマシン技術が呼ばれたという訳じゃな」
「お前、ただ暴れただけだしな。あれじゃイグニッションしててもして無くても関係なかったじゃねぇか」
「その時は詠唱兵器を使っとらんぞ。それに妾はここの組との交渉役もやってるしな」
「この界隈を陣取ってた組が居なくなった後にまた悪質なヤクザが住み着く前に比較的マシな所に話を持っていった訳か」
「ま、そういう事じゃ。蹴散らしておいて空席にしたままでは無責任という物。薬はあつかっとらんし、それなりに信用もできる適当な後釜を用意しておいた訳じゃな。ついでに言えばあの夜、屋敷周辺の人払いをしてくれたのもこの組の連中じゃ。銀誓館が立ち入る前の後始末をしてくれたのもな」
「通りでな……納得がいったぜ。なあ姉貴」
事の裏側を知って安心した恋華は姉に同意を求めたが、
「いや、私はルルティアが事前に何かしたんだろうなーって」
姉は既にこの事態を予測していたようであった。
「……もしかして私だけか? ルルティアの心配してやったのは」
「ふふっ、まあ気持ちは受け取っておくぞ」
「っち……何かおごれよな!」
「よかろう、今日の妾は太っ腹である!」
と、堂々と宣言したルルティアの背後に白い影が。
「師匠」
もちろん、メルティアである。
「うわびっくりした。お前何時から妾の背後を取れるようになった?」
「鍛えられてますから。それよりも臨時収入についてのお話があります」
メルティアの手には事務所の銀行通帳があった。
「……すまん、おごってやれそうにない」
「まあ、そんな事だろうと思ったぜ……」
「こうして、一つの事件の幕は下りた。しかし、これは後の惨劇へのエピローグにすぎなかったのだッ!!」
「姉貴……適当な言葉で閉めようとするな。しかもエピローグじゃなくてプロローグだ。エピローグじゃ終わっちまう……ってこの事件はこれで終わりなんだが」
荒事処理屋サーゲイト。
銀誓館学園を卒業したルルティアが所長を務め、その弟子であるメルティアが副所長として事務所の生計を支えている。
普段は探偵の真似事をしている彼女達の本業とは”学生”では手を付けにくい事件を解決する事。
宮藤姉妹は近くに住む能力者姉妹で、よく事務所に遊びに来る。
これは、彼女達の日常の一コマを書いた物語。
03 | 2025/04 | 05 |
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