[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
目の前の戦闘に集中している為か、単に喋るネタが尽きたのか4人は黙々とマウスとキーボードを動かし続けている。
思いっきり爆睡していた事を示すかのようにチャット欄は意味の無いアルファベットで埋め尽くされていた。
黙々と、しかし凄まじいスピードで各種ショートカットを操り敵を確殺し続けているメルティア。システムのバグを突いて不正行為ギリギリのラインを疾走し続けている。
ルルティア
「……まるで百鬼夜行じゃな」
銀誓館学院のキャラクターは全員一次職……つまり、キャラクターとして殆ど成長していない状態である。
その状態で三次職ですら薙ぎ倒す凶悪ボスモンスターと戦おうというのだから当然、死者が大量に出る。
しかしそこはMMO、死んでも復活は即時だ。有料アイテム使い放題なので現場への急行も可能だ。
その結果、所謂ゾンビアタックを数千人規模で実行しているというのが銀誓館勢の戦況である。
ルルティア
「しかし、Webマネーの大量投入か……金銭目当てだったらまんまと引っかかっている訳なんじゃが」
ルルティアは銀誓館学院の底知れなさを感じていた。
所詮、課金アイテムなどという物はゲーム上のデータに過ぎない。一度元となるデータを作ってしまえば、それをいくら販売しても在庫は無限であり、生産を行う必要すらない。だというのに現金を得る事は出来るのだ。何の消費も無いのに現金を得ることが出来る……これこそが無料MMO市場を支えている大きなポイントであろう。
当初ルルティアは銀誓館以外の上級プレイヤー……と、言うか所謂廃人と呼ばれる他のプレイヤーの戦力も当てにしていたがそれはゲーム上の仕様によってあっさりと打ち砕かれる事になった。
ルルティア
「課金アイテムが無ければ戦う資格すら与えられないとはな……とは言え金銭目当てにしては手が込みすぎているな。どうやってここまで頑強なプロテクトをかけているのか」
メルティア
「やはり――師匠もその点に引っかかっていましたか」
目線はモニターから一切離さず、高速で流れるチャットログを掌握し、冷静な現場指揮をしながらも自身も高レベルな戦闘を行っているメルティアが片手間とばかりに話しかけてきた。
ルルティア
「相手はあくまでゲーム上で……一次職の集団ですらクリアできる可能性を残さなければならない……それは昨日までの調査で見えていた話じゃがな」
メルティア
「全てはデータ上でのやり取りに過ぎません。しかし、不正行為は即時に不可思議な手段で弾かれてしまう――」
戦闘は最終局面……ビックジェネレーターというその名の通り巨大なモンスター精製装置、という設定のモンスター攻略に差し掛かっていた。その戦闘は続々と死者を量産する一見熾烈な戦いではあったが、メルティアの言う通り全てはデータ上の事。無数の演算を繰り返しているだけに過ぎない。
戦場で起きる惨劇をいくつも目の当たりにしてきたルルティアと、高度な情報処理能力で1プレイヤーとして得られる情報だけでプログラムを逆算できるメルティアは冷めた目でこの戦場を見つめている。
たしかに、人の命が……魂が賭けられた現場でありながらこの決定的なまでの緊張感の無さ。無機質な殺し合いが生む違和感。
相手の目的が見えない。
魂を奪う、それは奪った魂には使い道があるという事だ。恐らく、裏で手を引いているのは来訪者だろう。ゴーストで起こせる事件の範疇をはるかに越えているのだ。そして、そういう時には大概背後に”来訪者”という存在が控えている。
”来訪者”とはその名の通り、この世界とは異なる世界から来た存在である。その意味ではルルティアとメルティアもまた来訪者と呼ばれるべき存在だ。しかし、銀誓館が相手にしている来訪者は規模が全くの別物である。約1年ほど前にこの世界に単体で現れた二人とは異なり、来訪者は世界結界が作られる前からこの世界に存在し、それぞれが大規模な集団である。
しかし、二人がそうである様に他の来訪者も世界決壊の影響を受け、その能力を大幅に弱体化されている。だからと言って世界結界を破壊してしまえば全ての来訪者を含めた能力者による全面戦争が起きてしまう……そして、その全面戦争で確実に勝利できるだけの戦力を持つ集団は存在しない。それ故世界結界を破壊する事は来訪者にとっても禁忌であるのだ。
メルティア
「今回の来訪者は、もしや”電子体幽霊”(ワイヤードゴースト)なのではないでしょうか?」
ルルティア
「うむ……断言は出来んがな。ネットワーク上に存在できる来訪者が居たとしてもおかしくない」
恋華
「”電子体幽霊”ってバルドフォースのアレか?」
メルティア
「まあ、そのような物という意味です」
愛華
「それなんだっけ?」
ルルティア
「つまり、電子ネットワーク上に存在できる生命体……インターネットの世界で生きている存在という事じゃ」
メルティア
「――ですが、電子ネットワークとは単なる情報の集合体に過ぎません。仮に生命体のような物が存在するとしてもそれはただのプログラム、AIと呼ぶべきでしょう」
ルルティア
「だからこそ”電子体幽霊”なのじゃよ。そう考えれば辻褄も合う」
恋華
「どういう意味だ?」
愛華
「なるほど、ゴースト繋がりって事ね」
ルルティア
「そうじゃ」
恋華
「またこの姉貴は平気な顔して先を越しやがる……つまりこう言いたいのか? 幽霊ってのは魂だけの存在で、実体が無い。同じ様に実体が無い魂だけの存在がネット上に居て、そいつらが主犯って訳か?」
メルティア
「だとすれば”魂を奪う”という行為にも説明が付きます。電気的な繋がりを持てる存在から一定の法則に基き魂を奪う。奪った魂は下僕にするのか、取り込んでエサにするのか――具体的にどうするのかはまだ分かりませんが」
ルルティア
「使い道にあってはどう考えても推測の域を出ないな」
メルティア
「そうだとしても何らかの媒体は必要だと思うのですが――」
愛華
「……”草原の狼”(ステッペンウルフ)じゃない?」
恋華
「おいおい、昨日使ったハッキングツールがどう関係するって言うんだ?」
メルティア
「そう――だとすれば」
ルルティア
「む、何か分かったのか?」
メルティア
「”草原の狼”については昨日説明した通りです。複数の端末から時間差を置いて同時に実行しても最終的には一つの情報の集合体になります。しかし、実体を持っている訳ではありません」
ルルティア
「……そうか。妾にも読めたぞ」
恋華
「媒介は……世界中に分散して存在するって事か」
メルティア
「ネットワークで接続されているありとあらゆるコンピューター――それを物理的媒介として、その実体を分散させる。その方法なら特定のサーバーを必要とせず、巨大な実体を持つ事ができます」
ルルティア
「”草原の狼”で太刀打ちできないのは当然だった訳か……同じ様な格上の存在が相手ではな」
恋華
「しかし……ここまで断言しておいて外れたらかっこ悪いぜ?」
丁度その時、イベントの終了を知らせるテキストが表示された。
とりあえず、今回は難を逃れたという事らしい……しかし、一刻も早くその実体を掴まなくては何の意味も無い。今回はあくまで敵の計画を阻止しただけで何の解決にもなっていないのだ。
ルルティア
「結局、推測の域は出られない訳か」
メルティア
「銀誓館からの正式な調査結果が必要ですね」
恋華
「やれやれだぜ……」
ルルティア
「まあ、今週はここまでじゃ」
愛華
「それじゃあまた明日!」
03 | 2025/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 |